岩政大樹が書く「勝負強さ」にある表裏
理想的なサッカーを貫くこと、それを捨てること
「現役目線」――サッカー選手、岩政大樹が書き下ろす、サッカーの常識への挑戦
自分たちのスタイルが貫けない一戦で
その日は前節とはうって変わって雨がピッチを打ちつけ、どんよりとした空気がスタジアムを覆っていました。試合もその天気のように、重く、苦しい立ち上がりとなりました。
さいたまスタジアム独特の空気に押され、なんとか僕たちの3連覇を阻もうと勢いをもって試合に入ってきたレッズに対し、立ち上がりは完全にリズムを取られてしまいました。硬い立ち上がりになることは想定していましたが、想像以上に押し込まれる展開となりました。
しかし、僕たちは冷静でした。まずはこの相手の勢いが止まるまで、ジタバタせずに我慢しようと割り切りました。僕はディフェンスラインを任されるものとして、中盤を取り仕切る小笠原満男選手と「前半は我慢だ」と何度も声をかけ合ったのを覚えています。何度か危険なシュートもありましたが、なんとか相手の攻撃を受けながらも無失点で前半を切り抜けた僕たちは後半にリズムを取り戻せると考えていました。
しかし、後半に入ってもなかなか思うようには主導権を握れませんでした。相手の勢いを止めることはできていましたが、僕たちがリズムを取ったと言える時間帯もなかったと思います。ひたすら我慢が続く試合展開でした。
ただ、できるだけ主導権を握ることを目指して試合に入りますが、リズムが取れないなら守備からやり直し、我慢をすることで勝ちへの筋道を立てるのもその頃の僕たちのスタイルでした。
前回のメンタリティのところで書いたように、勝負所の試合とはそれまでのシーズンの自分たちをごまかせない試合になります。攻撃で相手を圧倒するだけでなく、守備から入ることでリズムを取り直す戦いも織り込んで試合に挑んでいた僕たちは、その展開も僕たちのリズムと言えたのかもしれません。
後半21分の興梠選手(この時はまだ鹿島の選手でした)のゴールは、暗闇に突然射した一筋の光のようでした。興奮してベンチ前まで駆け寄った僕でしたが、それまでの展開を考えるとまた押し込まれるのは目に見えていて、一声かけたらすぐにポジションに帰っていきました。
その後の展開は予想通りでした。残りの時間はさらに攻勢を強めてきたレッズの前に紙一重の場面が続きました。
3年間積み上げていたものがたった一つの失点で崩れ去る怖さをみんなで共有し、呼吸を合わせて体を張ることで乗り越えました。
結局、1対0で浦和レッズを下し、僕たちは3連覇を達成しました。